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2016年度の専門セミナーの一つは「語りから未来を紡ぐ」と題して山田・笠井の2名で担当しました。セミナーの名称は私が授業や研究プロジェクトの名称としても用いているものですが、今回は参加団体からの発案を受け、これをセミナー名に採用しました。
今回は参加者を児童相談所または家庭児童相談室で相談業務にあたっている職員としました。ふだん、相談・支援の業務でたいへん過酷な状況をいくつも抱えつつ、多忙な日々を送っている職員たちが、同業の仲間たちの仕事の動機や業務に掛ける思いを知る機会はあまりないのではないかと考え、研修と交流の両要素を含めたデザインにしました。
冒頭と最後の挨拶は山田先生に任せ、私はその間の100分ほどのワークショップのデザインと進行を担当しました。ワークショップの流れは次の通りです。
- 自己紹介:講師(笠井)の研究動機と今回ワークショップの目指すことについて
- アイスブレイク:(5,6人)共通点探し
- ワーク[A1]:(個人)楽しいこと・つらいことの書き出し
- ワーク[A2]:(2,3人)書き出した項目の共有
- ワーク[B1]:(2,3人)相手の人生を聞いての年表作り
- 休憩
- ワーク[B2]:(5,6人)ペア相手の人生をほかの人に紹介。紹介された人へのグループ内での質疑応答
- まとめ
近い業務内容ではあるものの、ふだんは異なる職場で働く人たちが、「この人もこういう思いでやっているのか」「同じようなやりがいやつらさを感じているんだなあ」「これくらい気を抜くのもいいかもしれない」「こうすれば楽しくなるのか」と、自分との共通点や相違点を見つけながら感じることを楽しんでもらえたようです。
また、ふだんは相談を聞く立場の皆さんが、後半のワークでは自分自身のことについてほかの人に関心をもって聞いてもらうという経験をしました。どの人の辿ってきた道も、ほかの人にとっても、それぞれに楽しく意味のあるものに写ったようです。
ナラティブ・セラピーの分野で、点の演習(dot exercise)というのがあります。人生で起こることや、人の性格などを一つ一つ点だと考えたときに、どの点を結んで線を繋ぐかで、浮き出てくる像は異なるという話です。
今回のワークショップでは点の演習をしたわけではありません。ただ、繋がりはありそうです。
相談業務のことを考えると、相談の際には「問題の点」が「選んでくれ」とばかりに強調されている状態だと言えるでしょう。ところが、その点を選んでできあがる「問題の子」「問題の親」「問題の家族」は、確かにニーズのある場所ですが、そこには別様の描き方が可能性としては残っている、そして、そこにこそ本人の主観的な自分らしさのようなものがあるかもしれない。
「相談・支援の専門職」という描かれる線が先に決まっていて、ましてや研修ではそれを構成する点がわかりやすく浮かび上がっている、そういう場で、敢えて「専門職」の線を一度消して「これまでの人生」という自由な描き方をしてもらう、そういった試みでした。(もちろん、私たちはそう簡単には自由になれないので、描かれた「これまでの人生」の多くは「なぜこの専門職になったのか」をひたすら志向するものであったのも確かです。)
40名ほどの参加者があり、アンケート結果ではおおよそ満足度の高いものだったようです。次年度も似たような専門セミナーがあれば、という声もいくつもいただきました。実はこのワークショップは私ではなくても比較的簡単に真似して採り入れることが可能ですし、職種を問わずに実践可能です。
最近、人生を描く際には一つだけの物語(single story)ではなく、多くの描き方がありうるし、それだけではなく、私たちは日常の生活において複数の物語・立場を常に同時に経験しているのではないか、というような考えに惹かれており、専門セミナーでエクステンションしてみました。