2017年7月2日から7月5日の旅程で島根県の2高校に学科を代表して訪問してきました。今回の訪問目的は、特色ある地域協働事業を展開している2校に本学科の教学について説明し、地域作りに高い意欲がある生徒に受験してもらおうというもので、一言で言えば営業です。
島根県は離島・中山間地域の高校魅力化・活性化事業に取り組んでおり、地域おこし協力隊を「高校魅力化コーディネーター」として配置するなどして、地域の特色を活かした教育に取り組んでいます。
このあたりの話は、次の論文が参考になるでしょう。
- 樋田大二郎(2015)「離島・中山間地域の高校の地域人材育成と「地域内よそ者」―島根県の「離島・中山間地域の高校魅力化・活性化事業」の事例から―」青山学院大学教育学会紀要『教育研究』59, pp.149-162.
高校魅力化に際しては、グローカル教育がキーワードになり、地域と高校とのつながりが教育に活かされるだけではなく、他地域にも開かれたさまざまな取り組みが行われています。
他地域からの入学生を従来の山村留学の文脈に「島根県版山村留学」と位置づけ「未来との縁むすび しまね留学」という専用のウェブサイトも用意されています。
(それにしても、島根県の「縁」ブランディングは徹底していて興味深いですね。今回松江に行ったとき、この時期に多い雨は「縁雫(えにしずく)」と位置づけられていました。)
しまね留学のサイトには、「部活(地域系)」がまとめられたコーナーがあり、今回訪れた隠岐島前高校の「ヒトツナギ部」や、津和野高校の「グローカルラボ」も紹介されています。私のイメージでは地域と関わりのある部活動は「ボランティア部」や文化芸能部的なものだったので、こうした取り組みは斬新に思えました。
ヒトツナギ部創設の背景や、高校魅力化の具体的なプロセスについても理解するのに最適な本として、『未来を変えた島の学校:隠岐島前発 ふるさと再興への挑戦』という書籍があります。町長やコーディネーターといった実際に活動を始め制度を変え・作ってきた人たちの本です。
隠岐島前(おき どうぜん)高校は隠岐諸島の島前と呼ばれる中ノ島(海士町)、西ノ島(西ノ島町)、知夫里島(知夫村)の3島地域にある高校です。
しまね留学のウェブサイトによれば、2016年5月1日現在の生徒数は184名、うち「しまね留学」生は74名(40.2%)と、県内高校で最大の割合です。
私のゼミOBである長谷川大介さん(2017年卒)が、高校と連携した公立塾「隠岐國学習センター」で在学中の2016年度に1年間のインターンをしていたため、ゼミ合宿を2016年8月に行い、同センターの豊田庄吾センター長にゼミ生向け講演をいただきました。(ゼミ合宿の様子はFacebookのゼミページ内アルバムにて)
大学を卒業し同センターのスタッフになった長谷川さんと、町の社会福祉協議会に赴任した龍谷大学社会学部の卒業生(同じく2017卒)と3人で、初日の夜に会食しました。
山内・海士町長が龍谷大学で講演をしてくださったこともあり、少しずつ龍谷大学と町との関係もできていくといいなあ、などと私は思っていますが、ともかく、2人の卒業生が前向きに働いていてホッとしました。
2日目は午前中に長谷川さんに町内を案内いただき、午後に隠岐島前高校で校長と進路指導担当にそれぞれお話しをしました。
海が見える最高のロケーションの図書館も、司書の方にご案内いただきましたが、「まちづくりを考える」というコーナーがあるなど、選書の工夫に驚きます。
高校を出て、男子寮「三燈」でハウスマスター(舎監)と高校生たちの案内を受けました。
特に高校生たちが、自分たちの高校や寮を誇らしく愛着を持って延々と語ることに好感をもちます。他の事例と比較しながら、自分たちの属する組織の良さをきちんと言語化できていて、かつ、爽やかで、うらやましく思いました。
その後、隠岐國学習センターで「夢ゼミ」を見てきました。
夢ゼミとは、対話や実践を通して自分の興味や夢を明確にしていくための授業です。1・2年生向けの夢ゼミは月1回実施。多様なゲストをむかえて、対話の型や、地域の課題を当事者意識を持って考えます。
津和野高校は、島根県の西端にあり山口県の萩と隣接する津和野町にあります。津和野町は小京都とも呼ばれる地域で、森鴎外や西周といった著名な人物を生んだ土地でもあります。
津和野高校には、2014年7月に関西学院大学の市川顕さん(同じ研究科の先輩)と行き、校長や魅力化コーディネーター(当時)とお話しをしたり、町営英語塾HAN-KOHを訪ねたりしました。(Facebookのアルバム)
津和野町に外から入り、地域おこし協力隊などで活躍する人材は、Founding Baseというおもしろい会社が絡んでいます。
津和野到着後、津和野高校の校長、進路指導担当、魅力化コーディネーターと会食をし、高校・大学それぞれの教育について熱く語らいました。
翌日(旅程の最終日)に、高校やHAN-KOH、そして町内を訪れる予定だったのですが、あいにく同日に津和野町には大雨により特別警報が出され、高校も休みになったので断念し帰路につきました。
2つの高校とその関連組織や地域をまわって強く感じたのは「大学だからこそできること」を真剣に考えなければならないということです。
高校が地域をフィールドとする(in)とか、地域について知る(about)とか、地域のために活動する(for)の段階を超え、既に「地域とともに(with)」をやってしまっている。しかも域外からの先進的な経験・知識を持った多彩なゲストとも交流している。
大学が、とってつけたように地域と連携し「PBL」と名乗ってイベント実施や学生の「満足度・楽しさ」に満足している中で、もっとどっぷりと地域につかり教育や学びに高校を挙げて考えているところがある(いや、これはちょっと高校のことも大学のことも極端に書きすぎているけれども)。
そうした高校を出て、地域づくりやコミュニティリーダー育成を掲げる僕の所属学科での教育に幻滅せず「やっぱり、大学は違うよね」と思ってもらえるような教育を手がけたい(もちろん、今もそうしているつもりではある)。
ところで、大学だからこそできること、という問いにとりあえずの答えは「研究に基づく知見を実践に活用すること」だろうと思う。そもそも大学教員はその育成・採用方法からしても明らかなように、教育者である前に研究者だ(というか研究者でしかない)。
研究者自身の先端的な研究を学科・学部のカリキュラムに接合させて、実践の場に還元させる以外、大学でないとできない地域協働とかPBLなんてないだろう。
ということで、僕の暫定的な結論は(あたりまえだけど)「地道に研究し続けましょう」ということになる。
島前訪問はゼミOBの長谷川大介さん(隠岐國学習センター)が、津和野訪問は大学の後輩でもある山本竜也さん(魅力化コーディネーター)が手配してくださり、たいへん充実したものになりました。あらためてお礼申し上げます。