
当日は13時に国分寺キャンパスに集合し、1時間ほどお互いの自己紹介や研究テーマ、日頃のゼミの様子などの情報を交換し合ったあと、インタビュー調査のワークショップを行いました。
大橋先生のご専門は、移動の社会学/移動の生活学/ビジュアル・エスノグラフィーといった分野で、ゼミでは特にビジュアル・エスノグラフィーをメインに研究を行っているそうです。
ビジュアル・エスノグラフーは、海外では盛んに研究がされているそうですが、日本ではまだまだ発展の余地があり、大橋先生自身、文献もほとんど外国語で書かれたものを読んでいると仰っていました。多くの人には馴染みのない分野だと思うので、以下に大橋先生のゼミのHPからビジュアル・エスノグラフィーの説明を引用します。
大橋ゼミで学ぶビジュアル・エスノグラフィーは、写真や動画、スケッチなどを使って、フィールドワーク(観察やインタビュー)を行ない、人びとの生活文化を理解し、その成果をプレゼンテーションするアプローチです。主に人類学や社会学の分野で使われ発展してきた調査研究の方法です。学術的な研究のみならず、企業などが顧客を理解するための方法としても使われています。例えば、新商品やサービスを企画する際に、ビジュアル・エスノグラフィーの方法を用いることで、顧客のニーズや悩みや習慣を深く理解することができ、新しいアイディアの創出・提案につなげられる可能性があります。(https://www.tku.ac.jp/department/seminar/region/kana-ohashi.html)
ヴィジュアル・エスノグラフィーは笠井ゼミのメンバーも普段あまり触れる機会がない分野で、大変興味を唆られた様子でした。また、卒論(正確には卒業制作?)の形式が論文という枠に囚われず、より自由な形式の表現が許されているということを聞き、驚きの声が上がっていました。
活字文化がいかに我々の認識を形成してきたかという問題は社会学の重要なテーマであり、生のリアリティが決して言葉に還元し尽くせるものでない以上、ビジュアル・エスノグラフィーという技法の可能性は大変重要なものであるように思われます。
そういえば私は別の授業で、アンドリュー・アボットという社会学者の文献を読んでいるのですが、そこで彼は”Lyrical sociology”なんてものを提唱しています。これは簡単にいってしまえば、観察対象から距離をとって客観的に記述しようとするのをやめ、より没入して社会学者自身の感受性に従って記述するべきだ、ということです。そうすると、例えば芸術の領域とどう線引きするのかという問題が生じるかと思いますが、「来るべき社会学」は、芸術やその他諸分野とさらに融解したものとなっているのかもしれません。
さて、当日行ったインタビュー調査は大橋ゼミの方で準備してくださったもので、キャンパス内にいる学生ないし一般人に声をかけて鞄の中身を見せてもらい(!)、そこからその人の人生を想像してみるというものでした。

私自身は、出会って1時間程度しか経過していないペア(≒初対面)とインタビューに赴き、キャンパス内にいる人間(全くの初対面)に鞄の中身を見せてもらってこいというのでビビり散らかしていたのですが、なんとか渡り廊下のベンチのようなところで空きコマを消化していた2人組に、インタビューすることができました。
インタビュイーの持ち物を見せていただくと、かなりのミニマリストなようで、鞄の中身は必要最小限、という感じでした。驚いたのは彼女がパソコンも携帯していなかったことです。とはいえ財布や筆箱といった個別のアイテムに注目していくと、こだわりや好きなアイドルなどが見えてきました。(私は最初、これは参った、ギターでも背負ってる人に声をかけていれば話が広がりやすかったのに、とか考えてしまいましたが、単にインタビューが下手だったと反省しています。)最終的には「普通の大学生」の解像度を上げたような感じに話を持って行き、発表を乗り切りました。

他の班では学内の図書館に勉強に来ていた高校生やたまたま見かけた東京経済大学の後輩にインタビューをしていて、面白い発表を聞くことができました。3時過ぎには全体のプログラムが終わったため、2時間ほどの短めのインターゼミでしたが、大変濃い体験ができたと感じます。
大橋先生、そして大橋ゼミの皆様、ありがとうございました!